- 野球のFAが複雑で分かりません
- プロテクトや人的補償、金銭補償、国内FA、国外FAとは?
- ポスティングとの違いを知りたい
このような疑問を解決します。
本記事は、日本野球機構(NPB)、フリーエージェント規約、日本プロ野球選手会の情報をもとに作成しました。
それでは、本題に入ります。
野球のFAとは?
FA=フリーエージェント(free agent)の略です。
FAになると、選手があらゆる球団と契約を結ぶことができる権利のことです。
FA権とも呼ばれます。
プロ野球選手の場合、毎年オフに所属球団と契約更改を行います。
単年契約、複数年契約みたいな記事を見ると思います。
しかし、FA権を取得して行使(宣言)すると、他球団とも契約交渉をすることができます。
ちなみに選手は、FA件を行使(使わない)と他球団と交渉することはできません。
※球団が解雇した場合を除く。
実力のある選手であれば、お金を多くもらえるチームに移籍するのは、プロとして当然の考え方です。
「FAが野球人生を左右する」と言っても過言ではないくらい、重要な制度になっています。
ちなみに勘違いしやすいのが自由契約とFA権です。
FA権→一定の年数をプロとして過ごすと取得
自由契約→球団が「来季の契約を結ばない」といった選手
全く別物なので注意してください。
メジャーリーグの場合は、FA選手と自由契約選手をまとめて、FA選手と呼ぶのでややこしくなります。
※メジャーリーグの場合、もっと細かいのですが、分かりやすく解説しています。
ちなみにポスティングとFAも違うので、注意してください。
ポスティングについては»ポスティングシステム概要をご覧ください。
FAの取得条件
かんたんに言うと、1軍でのシーズン登録日数によって、FA権を取得できます。
FAには国内FAと、海外FAの2種類あります。
分かりづらい場合は、最後に例で説明します。
詳しくみていきましょう。
国内FA権
国内FAとは日本のプロ野球全球団と交渉、契約できる権利。
【取得年数】
・高卒8シーズン(合計1,160日)
・2007年以降のドラフトで入団した大卒、社会人は7シーズン(合計1,015日)
この日数に達するとFA権を取得したことになります。
海外FA権
海外FAとは日本のプロ野球だけではなく、メジャー等の海外チームと交渉、契約できる権利。
【取得年数】
全選手9シーズン(合計1,305日)
この日数に達するとFA権を取得したことになります。
FAの1シーズン
FA権を取得する条件の「シーズン」とは1シーズン、145日以上の出場選手登録(一軍)が条件となります。
145日以上、出場選手登録されると、1シーズンとしてカウントされます。
ちなみに、試合の出場は関係ありません。
出場選手登録されていると、日数にカウントされます。
プロ野球は6か月程度(3月末~10月)開催されますので、180日ぐらいが最大になります。
したがって大きな故障をしなければ、1シーズンにカウントされます。たっけー
【ポイント】
出場試合ではなく、1軍の登録日数での計算になります。
また代打や代走のスペシャリストでもFAを取得できることになります
最短取得年
最短の取得年は、以下のようになっています。
高卒→最短26歳
大卒→最短29歳
社会人→最短31歳、28歳(高卒社会人)
FAの日数については、後半で詳しく説明します。ざっくりした話を進めます。
FA・金銭補償・人的補償
ここから少し難しい話になります。
選手がFAで他球団に移籍すると、選手を獲得した球団は前の球団に対して、金銭と人の補償が発生します。
補償の内容は、前の球団の年俸によるランクでA、B、Cにランク付けされます。
ランクは以下のとおりです。
- Aランク:年俸上位1位~3位(外国人を除く)
- Bランク:年俸上位4位~10位(外国人を除く)
- Cランク:年俸11位以下(外国人を除く)
補償内容は、移籍した選手のランクにより人とお金で補償します。
- Aランク:「人+(前球団)年俸の50%金銭」or「年俸の80%の金銭」
- Bランク:「人+(前球団)年峰の40%の金銭」or「年俸60%の金銭」
- ランクC:補償なし
例えば、旧球団で年俸1位の選手がFAで他球団に移籍した場合、「選手+お金(年俸50%分)」か「お金(年俸80%)を補償する必要があります。
FAで選手を獲得した球団の人的補償ですが、全ての選手から選ぶことはできません。
新球団が人的補償による流出を防ぐために選ぶ選手が「プロテクト」です。
プロテクト
プロテクトとは、絶対に移籍させたくない選手を相手球団に提示する制度です。
FAした選手を獲得した球団は、28人の選手をプロテクトとして、人的補償の対象外とすることができます。
プロテクトされた選手は、FAの補償として選ばれることはありません。逆に選ばれていない選手は、人的補償として移籍の可能性があります。
前球団はプロテクトにのっていない選手から、人的補償を選ぶことになります。
プロテクトについては、非公開でファンはもちろん、選手も分からないらしいです。球団の運営、編成に関わる、一部関係者のみ分かるとのこと。
プロテクトは問題あり!?
プロテクトについては度々話題になります。
近年では元巨人の長野、内海選手がプロテクト対象外のため、FAの人的補償で他球団に移籍しました。
FA移籍だけではなく「誰が人的補償になるのか」にも、注目が集まっています。
この制度については、球界内でもただのトレードといった意見もあります。
FA権選手獲得の流れ
分かりずらいのでおさらいを含めて、2020年の例を使って解説します。
日本シリーズ終了(11月25日)
↓
FA宣言選手公示(12月5日)
↓
FA選手獲得
↓
獲得球団は、プロテクト選手名簿を提出(12月19日まで)
↓
全ての補償を完了させる(1月14日まで)
FA権を使うことを「FA宣言」と言います。
日本シリーズ終了から7日以内(土日を除く)に宣言しなければなりません。
2020年は、12月5日にFA宣言選手の公示(発表)がありました。
公示後2週間以内に移籍先の決定、新球団はプロテクトリストを提出する。
その後2週間以内に旧球団は、プロテクトリスト外から選手を獲得する。
公示から40日後に全て完了します。
※両球団の合意があれば、日にちが伸びることもある。
野球のFAについての質問
FAについての疑問に答えていきます。
ここからは、難しい話になるので興味ある方だけどうぞ。
ちなみに【必見】野球のポスティングシステムについて超分かりやすく解説しています。
2回目の取得年
FA宣言選手として公示(発表)された選手の、次のFAは何年後?
2回目のFAは残留、移籍問わず、1回目の4年後になります。2回目は、海外FAの権利も同じタイミングで付きます。
2回目のFA宣言は、取得期間が変わるのも注意点です。
また、補償額も変わります。
- Aランク:「人+(前球団)年俸の25%金銭」or「年俸の40%の金銭」
- Bランク:「人+(前球団)年峰の20%の金銭」or「年俸30%の金銭」
- ランクC:補償なし
1回目のFA宣言と比べると、金銭が半分になります。
外国人枠の選手のFA
外国人枠の選手がFA権を取得するとどうなる?
宣言の有無に関わらず、次のシーズンから外国人枠から外れます。
現行の制度は、外国人枠は登録5人まで。ベンチ入り4人までです。
優良助っ人外国人がいると、編成の幅が広がりますね。
故障者選手特例措置制度
故障者選手特例措置制度とは何ですか?
グランウンド上のケガは、最大60日まで選手登録日数に加算されます。
145日未満の場合は、加算されるので、選手にとってメリットが大きいですね。
人的補償の移籍を拒否した場合
プロテクトリスト以外の選手が、人的補償を拒否したらどうなる?
その選手は、資格停止処分となり試合に参加できなくなります。
選手に拒否する権利はないですね。
育成選手
育成選手は、人的補償の対象になりますか?
育成選手は人的補償の対象になりません。
プロテクトリストは、支配下選手のみ登録できます。また登録する必要もありません。
期待の若手を育成契約にして、人的補償の対象から外すといった選択もできそうです。ルールの穴ですね。
FAと自由契約の違い
ごちゃごちゃになるのがFAと自由契約です。
FAは本記事で説明したとおり、出場登録が一定数に達すると取得できる制度です。
これに対して自由契約は、球団から「来季の契約をしない」と言われた選手のことです。全く別の制度です。
勘違いする要因として、メジャーリーグではどのチームとも契約していない選手をFA選手と呼びます。
つまり球団から来季の契約を結ばないと言われた選手と、選手登録日数に達した選手、契約が満了した選手など、とにかくどのチームとも契約を結んでいない選手をメジャーリーグではFAと呼びます。
FAの獲得人数
FA選手と契約を結べるのは、2名までです。
しかしFA宣言選手が多い場合は、以下のようになります。
- FA選手21名以上30名以下→3人
- FA選手31名以上40名以下→4人
- FA選手41名以上→5人
※FA宣言をして残留した選手と、ランクCの選手を含まない。
FAの登録日数について
FAの登録日数について詳しく説明します。
145日に出場が満たない場合
この場合は、1シーズンとしてカウントされません。
しかし1軍に出場選手登録されていた日数は、数字として残ります。
そのため他のシーズンの登録日数を合計して145日になった場合、1シーズンとしてカウントされます。
分かりづらいので例で説明します。
ちょっと難しいかもしれないです。
年度 | 登録日数 |
---|---|
2011年 | 160日 |
2012年 | 160日 |
2013年 | 63日 |
2014年 | 89日 |
2015年 | 148日 |
2016年 | 163日 |
2017年 | 179日 |
2018年 | 148日 |
2019年 | 155日 |
2020年 | 170日 |
一例でプロ野球選手の10年間の出場登録日数です。高卒選手と仮定しましょう。
この選手のFA取得年は、2019年になります。
まず145日以上の年が2019、2018、2017、2016、2015、2012、2011年で合計7シーズンです。
そして、145日に満たなかった、2013年(63日)と2014年(89日)をたすと、152日となり1シーズンになります。
したがって合計8シーズンになり、2019年がFA取得年となります。
いつFA権を取得できるのか
もう一例みていきます。
年度 | 登録日数 |
---|---|
2011年 | 66日 |
2012年 | 44日 |
2013年 | 163日 |
2014年 | 179日 |
2015年 | 148日 |
2016年 | 163日 |
2017年 | 179日 |
2018年 | 148日 |
2019年 | 155日 |
2020年 | ?日 |
同様にプロ野球選手の過去10年の出場選手登録日数で、高卒選手とします。
この場合、この選手が国内FA権を取得するのは、2020年の登録後35日目です。
これは、まず2011年(66日)と2012年(44日)を足して110日です。
そこに2013年から2019年までは145日以上登録されているので、1シーズンとしてカウントされ、合計7シーズンになります。
よって、2020年に145日に足りない35日を経過すると、FAを取得することができます。
このような形で、145日に満たないシーズンでも足りないシーズンの合計で1シーズンにカウントされます。
※CS(クライマックスシリーズ)も日数に含まれます。また移籍して球団が変わっても日数は引き継がれます。
他にも細かいルールが多くあります。
投手の場合は、オールスターやCS前後の登録抹消についても、一定条件を満たせば登録扱いになります。詳しくはプロ野球選手会公式ページをご覧ください。
FAの問題点
ここからは、FAの問題点を解説します。
この制度については、かなり賛否がある制度になっています。
そこで選手、ファン、球団の視点から問題点をみてみます。
選手目線
選手からみた問題点は以下のとおりです。
- そもそもFA宣言をしないと、他の球団と交渉ができない
- FA宣言をして移籍すると、裏切り者扱い、誹謗中傷がある
- FA宣言をしても、獲得する球団があるか分からない
- プロテクト、人的補償があると宣言するか迷う
詳しくみていきましょう
FA宣言をしないと、他の球団と交渉できない
元巨人の上原さんが、この問題について記事にしていました。
アメリカでは、基本的にメジャーに6年間所属すると、自動的にFA選手となります。
日本のようにFA宣言というものがありません。
選手の立場から考えると、FA選手が増えるので移籍市場も活発になり、選手にとってはメリットが大きそうです。
ただFA選手が多くなるので、「自動的に引退に追い込まれる」といった意見もあります。
FAで移籍をすると裏切り者、誹謗中傷がある
応援しているチームの選手がお金で他球団に移籍となると、文句を言いたくなる気持ちも分かります。
しかし選手の気持ちからすると、「もともと入りたかった球団」、「年俸が高い球団に移籍する」のは当然ですよね。
気持ちや生活を考えると当たり前ですよね。
本来FAは選手のための制度なので、ファンが選手の気持ちを理解していくしかないですね。
FA宣言をしても、獲得する球団があるか分からない
選手目線で見ると不安だと思いますが、プロ野球選手である以上、必要とされれば働けて、必要なければ働けない、となるのでしょうがないですね。
ただ事前の交渉ができないといっても、夏あたりから裏で調査している球団情報が、選手の耳にも届くのではないでしょうか。
なのである程度確信があって、FA宣言している選手がほとんどではないかと思います。
プロテクト、人的補償があると宣言するか迷う
相手チームの選手のことを考えると、ためらう選手もいるかもしれません。
選手の負担を減らすという意味でも、「FA宣言は無し」、「自動取得」のほうがいいのかもしれません。
「プロだからそんなことは気にするな」という気持ちもあります。
ファン目線
「球団の人気選手が他球団の中心選手になる」ことで落胆につながります。
そして選手を批判する人もいます。
さいさん話してきましたが、ファンとしてFA移籍を受け入れるのはつらいですが、受け入れましょう。
そして人的補償で移籍してきた選手を、全力で応援しましょう。
それが全ての選手へのリスペクトにつながります。
球団目線
- FA選手を獲得するのにリスクがある
- ベテランや期待の若手がプロテクトからもれてしてしまう
- 結局ただのトレードになっている、可能性がある
同じような内容ですが、詳しくみていきましょう。
FA選手を獲得するのにリスクがある
FA選手を獲得するには、自軍の選手をほぼ一人移籍させなければいけないので、球団としてもリスクを背負います。
このように考えると、ただの「人+金銭トレード」と変わらないという意見もあります。
巨人やソフトバンクは、現行の制度に文句があるような趣旨の発言をしています。
逆に他の球団は、今の制度で実力の均衡が保たれていると考えています。
金持ち球団とそうでない球団によっても、考え方に差があるようです。
FAの問題点まとめ
そもそもFAとは、選手の地位向上のために作られた制度です。
しかし現行の制度では、選手よりも球団に多くのメリットがあるように感じます。
球団にもリスクはありますが。
そして熱心なファンも球団を応援するため、FA宣言をすると、「選手を裏切り者」「人気球団にとられた」となるので、なかなか選手の立場が向上しません。
※最近は、少しずつ変わってきていると思いますが。
選手個人のことを思うのなら、ファンは選手に寄り添っていく必要があるのではないでしょうか。
生活ががかているのですから、年俸が高いチーム、地元、待遇が良い、もともと好きな球団に移籍することは、当然のことです。
なかなか理解できることではないですが、移籍してもその選手を応援していきたいですね。
FAを理解して野球をより楽しもう
野球の楽しいところは、シーズンオフも楽しめるところではないでしょうか?
気になる選手の移籍先での活躍を想像すると、来シーズンの期待も高まります。
逆に「好きな選手に移籍してほしくないなあ」と思ったりもしますよね。
そんなオフシーズンもいいのかなと思っています。
もしも本記事でも分からないことは、日本野球機構(NPB)、フリーエージェント規約、日本プロ野球選手会の3サイトをご覧いただくと、大体のことはのっています。
FAについては以上になります。
ポスティングについても記事にしているので、気になる方は»野球のポスティングシステム概要をご覧ください。
またほかの野球用語については【保存版】野球初心者にもわかりやすい野球用語一覧でまとめています。